KAL007 謎の逸脱ルート検証

 

後記

この KE007 の事故は既に ICAO の最終調査報告として結論が出ていますが、冒頭にて述べたようにヘディング・モードでの飛行は、風に流されてしまい、当時の風の状況からしてコースは左側に外れるはずである事、又 KE007 は確実に位置通報をしており、この通報は設定した INS のウェーポイント上を通過して初めて可能である事等、コースを逸脱した原因を単にパイロットのミスと結論付けたとしても、磁方位を維持するヘディング・モードの飛行方式と、レーダー航跡、交信内容等明らかな事実との間に大きな矛盾が生じる事は明白であることから、コース逸脱の原因を検証しました。

このシミュレーションで検証した結論としては以下の様にまとめました。
検証は、シュミレーションで求めた逸脱コースが、事実として明らかな KE007 の位置通報の内容とレーダー航跡に一致するかが最も重要なポイントですが、完全に一致したと考えます。
つまり、KE007 はアンカレッジを出発する際、駐機場より移動中に INS モード・スイッチをアライン位置より、ナビゲーション位置にした為に誤差が補正値として取り込まれた状態にてルート計算が行われた結果、逸脱コースに誘導されたものと結論します。

KE007 は確実に位置通報をしています、そして後続の KE015 とも情報の交換をしています、更にボイス・レコーダーの記録によると、操縦室内では、大きくコースを逸脱したことなど全く知る由も無く、リラックスした雰囲気の中で会話をしています。

INS(慣性航法装置)は高度な技術を駆使しての誘導装置で精度も良いのですが、極初歩的な単純ミスが引き金となり、重大な結果を招く可能性を秘めています。
極、初歩的な単純ミスとは、INS をナビゲーション・モードにセットする際は、絶対に航空機を動かしてはならず、この事は関係者にとっては、当然、常識中の常識であることです、しかし、この様なミスは起こり得るのです。
ハイテク機器といえども完全に自動化(無人化)することは、機器の故障のケースを考慮すると躊躇します、従ってハイテク機器と、人間と共同作業となりますが、この共同作業にあたり、人間のミスを防止する為の装置(インターロックという)が必要であり一般的にはインターロックを備えますが、この INS モード・スイッチをナビゲーション・モードにセットする際のインターロックは有りません。
最新の航空機の慣性航法装置は、この様なミスを誘発する可能性は少ないのですが、KE007 が装備している慣性航法装置を装備している航空機は、まだまだ沢山飛んでいますので、何らかの改善を行うべきと考えます。

改善策として以下を提案します。
1.INS モード・スイッチをアライン位置からナビゲーション位置にする条件に、パーキング・ブレーキ・セット を付加する案です。
    パーキング・ブレーキがセットされている事は、航空機が移動しない条件となります。
    パーキング・ブレーキがセットされていない時は、ナビゲーション・モード位置に動かせない様な機構を設 ける、又は動かせても
    警報ライトを点滅させる。
2.加速度センサーに誤差がある場合、私がシュミレーションしたような、INS の指示が表示され、逸脱コースに誘導されてしまうのか
    更なる専門分野による検証を行い、その結果を周知する。

以上でレポートを終わります。                                                    井出三津彦